通団連 澄川雅弘会長の寄稿文が、2022年4月7日付日本経済新聞に掲載されましたので、以下にご紹介します。
<観光立国支える「人財」に支援を>
通訳案内士(通訳ガイド)とは外国語によるコミュニケーションの能力と、日本の歴史・地理・文化の知識を兼ね備えた専門人材だ。1949年に国家資格として創設され、献身的な業務遂行でインバウンド(訪日外国人)観光客の心をつかみ、日本や日本人の印象・評価を高めてきた。新型コロナウイルスが流行する前は1万人近くが活躍していた。
当会は通訳案内士の地位向上を目指して2021年10月に発足し、北海道から沖縄まで全国の主な通訳案内士団体(14団体)が加盟している。私は長年、商社などで中華圏のビジネスに携わり、中国語の通訳案内士の資格を持つ。縁あって会長職を引き受けた。
当会には三つの存在意義がある。まず、03年に国が宣言した「観光立国」を支えることだ。日本は生産年齢人口の減少などで製造業の競争力維持が難しいが、豊かな観光資源がある。外貨を稼ぐ点では、輸出もインバウンド産業も同じだ。大規模な投資も必要ない。「感動価値」を提供し、観光を成長産業とする役割を担いたい。
次に、安全保障上の効果だ。ウクライナのような事態を避けるには、国民どうしの相互理解が欠かせない。東アジアでは人々の心に日本が起こした戦争や植民地支配による傷が深く残る。一方で、強権的な教育・メディア統制などで現在の日本と日本人の姿が客観的に伝わらない懸念もある。通訳案内士として草の根の交流を促し、わだかまりの解消に努めたい。
そして、観光立国の最前線に立つ通訳案内士という人的資源を守ることだ。コロナ禍によるインバウンド蒸発が3年目に入り、通訳案内士の2~3割は転廃業してしまった。配偶者の収入やアルバイトで食いつないでいる人も多い。
コロナ禍では国・地方自治体から個人事業者などへの支援があり、20年には通訳案内士が使える制度もあった。しかし、21年は対象から外れてしまった。収入減を補う直接支援のほか、地方の観光業者を対象とした研修の講師の仕事をつくるなど、通訳案内士のノウハウを生かして生活を守る施策を強化してもらいたい。観光立国を再び推進する時、現場を支える「人財」が散逸していては日本の国益を大きく損なうことになる。 以上